英国式リースホールド

発祥はイギリス

日本と同じ島国の英国では、個人の住宅も土地は所有せず、地主から有期限(一般的に99年間)で借りる『リースホールド』という、土地と建物の所有を分離する形態が長らく続いています。この間、建物の所有者は変わっていき、土地利用の権利と建物が、その時代の適正な価値で売買されるのです。
元々英国の土地の多くは王侯貴族の領地で、5年とか10年といった期間で小作人が借りて荒れ地を耕作し、次第に集落が出来て住宅用地も20年程度で貸出しされていました。英国で有名な観光地、コッツウォルズ地方の建物でも分かる通り、英国の住宅は200~300年現役で使われることは珍しくなく、リースホールドによる土地の賃貸借契約も次第に伸びて99年となりました。1997年、香港が99年間の租借期間が満了し中国に返還されたのと同じです。
その時、肝心なのは”1世紀をまたぐ期間で造られたインフラや建物は、そのまま更地にされることなく土地所有者に返還される”こと。だから香港はアジアの金融都市の地位は揺るぎません。
地主が所有地に建築の許可を出す場合、100年後には自分の子孫たちがさらなる資産家になるよう、100年後も需要が続く魅力的な街並み、耐久性の高い材料と陳腐化しない外観デザイン、維持管理のルールや負担を賃借希望者に求めます。日本の地主がアパート投資をするように、自らが借金などで資金調達し、短期的な利回りを求めて、安普請で画一的な建物を供給することは、一族の資産形成に繋がらないどころか、”親子三代で資産を失ってしまう”のです。世界のリースホールドは、日本と全く異なる土地利用方法です。
日本でも、戦前は大地主や庄屋さんなどが、土地を小作人に貸し、住居も長屋に住まわせていました。賃貸契約も期限があるのが当然でしたが、戦争が激化し職業軍人以外にも徴兵され、家長が戦地に送られるようになると、残された家族が賃料を支払えなかったり、契約期限によって住まいを失うというケースが増えました。その結果、戦地に赴いた兵士たちの士気にも影響するようになったことから、「正当事由がない限り、賃貸借契約は解除できない」という、地主や大家に不利な契約が取り決められたのです。
現在もそのような契約が一般的で、経済成長による地価の上昇や、不動産の含み資産が、実際には地主に帰属しなくなりました。つまり借家人がいれば容易に売買できず、地価上昇は借りて住んでいる賃借人が最もその恩恵を受けたのです。転居してもらいたくてもそのまま居座ったり、多額の移転補償料を求めたりする借主が続出、下手に他人に土地や建物を貸さないほうがいいという地主の苦悩が、子孫に引き継がれていったのが現在の姿です。戦後GHQによる財閥解体や農地解放などで、土地は細分化され個人に売買されるようになったため、英国のようなブロック単位の規模で、同じ地主が所有する土地に、100年間に亘り一族の資産形成につながる街づくり、景観づくりにはつながりませんでした。結果、狭小地や変形敷地でも、土地さえあれば更地が上昇し「土地神話」に至ったのです。
このようないびつで片務的な不動産賃貸契約を改めるため、平成4年に創設されたのが『定期借地権』という、公正証書による確実に契約が終了する契約方式です。事業用の定期借地権は20年間、住宅用の一般定期借地権は50年間以上の契約期間が定められましたが、なぜか地主にとっては「50年後の契約満了時に確実に還ってくるか」が不安で”更地にして戻す”という契約が、日本では一般的になってしまったのです。借主は、長生きすれば家を失うリスクを負い、地主は契約の残存期間が短くなれば、建物の手入れ、メンテナンスにお金を投じる住民はいなくなり、子孫への資産形成どころか、自分の土地が荒れ果てるに任せるしかなくなるのです。
北欧の国フィンランドでも、リースホールドによる住宅所有が過半数で美しい街並みが形成されています。その多くは国や自治体による土地経営です。日本式の定期借地分譲は、借主にとっても地主にとっても不幸でしかない”世界の非常識”といえるでしょう。

英国式リースホールドの3つのポイント

ポイント01
街並みは地域の
「社会資産」
住宅自体は、所有者個人の資産であっても、その地域の風景を形成する建物の外観や使われている素材は、地域社会全体の資産だという意識が根付いています。SNSが「ソーシャル・ネットワーク」と呼ばれるのは、個人の発信する情報でもソーシャル(社会)に影響を及ぼすから。その地域に住む人達が協力して、美しい街を将来の子供たちに残してあげる努力が、自分たちの不動産資産価値の維持や上昇に繋がるのです。
ポイント02
民主的に定められた管理ルール
土地の所有者と建物の所有者が切り離されているリースホールドでは、お互いの利益のために、資産の維持・管理のルールが民主的に定められています。会社の株主と同様、土地や建物の所有規模に応じて、創業株主(=地主)と個人株主(建物所有者)では発言権の差はあっても、総会での意見表明の権利はあります。区分所有のマンション管理組合と同様、維持管理のハード維持の仕組みとソフトのルールが守られるのです。
ポイント03
契約期間満了後は建物も地主のものに
民主化に揺れる香港が中国に返還される時、道路などのインフラや建物はそのままでした。人々の生活やその地域の歴史を紡いできた建物を、更地にして戻すという発想は日本だけの慣習です。元々が土地所有者にとって、長期に亘るリスクの低い土地の利用方法。最終目的は子孫への資産形成です。保証金で50年先の解体費用を先取りし、子孫がお金を掛けて建物を除去しても、文化もコミュニティも資産さえ残りません。

ハムステッド・
ガーデン・サバーブ

ロンドン中心部から北西に7〜8Km、東京の「山の手」のような小高い丘にある高級住宅地。およそ1世紀前に開発されたリースホールドによる住宅地は、100年経てもロンドンっ子の憧れのエリアとして魅力ある住環境と資産価値が続いています。